AI黄金時代:VCへのピッチをやめるべき理由
かつては「本物のプロダクトを作るにはシード資金が必須」だと思い込んでいました。しかし、AIがその方程式を書き換えました。10倍のレバレッジと高い支払い意欲を武器に、なぜ今なら「VCサーカス」を回避して自力で勝負できるのか。その理由を解説します。

2016年のサンフランシスコ。あるコワーキングスペースで、書きかけのピッチデック(プレゼン資料)を前に呆然としていたことを覚えています。フォントサイズを微調整したり、「TAM(獲得可能な最大市場規模)」のスライドにこだわったりして、すでに3週間を費やしていました。コードも書かず、ユーザーとも話さず。ただひたすら、パタゴニアのベストを着た投資家に、自分の会社を作る「許可」をもらおうとしていたのです。
今振り返ると、あの頃の自分を揺さぶってやりたくなります。
誰もはっきりとは教えてくれない真実をお伝えしましょう。私たちは今、歴史上最もブートストラップ(自己資金での起業)に適した時代を生きています。
過去10年間、スタートアップの定石は「アイデア → デック作成 → シード資金調達 → 開発」でした。資金がなければ、会社とは呼べませんでした。サーバー代は安くなっても、エンジニアを雇うコストは高すぎたからです。
しかし、この12ヶ月で、スタートアップ構築における基本的なユニットエコノミクス(採算性)は崩壊しました——良い意味で。もはや参入障壁は「資本」ではありません。「勇気」です。
もしこれを読んでいるあなたが、まだ資金調達を待ってスタートを切れていないのなら、これはあなたのために書いた記事です。AI開発の最前線で戦いながら私が学んだことを共有します。
1. 「10倍のレバレッジ」は現実だ(そしてそれは恐ろしいほどだ)
誰もが「10xエンジニア(10倍の生産性を持つエンジニア)」という言葉を口にします。かつてそれは、チームの他の誰よりも圧倒的にコードを書ける、稀有な天才だけを指す神話上の生き物でした。
しかし今日、AIは「あなた」を10xエンジニアに変えます。
先週末、私は新しい社内ツールのプロトタイプを「バイブコーディング(Vibecoding)」しました。5年前なら、これは3人がかりの仕事だったでしょう。CSSと格闘するフロントエンド担当、APIを構築するバックエンド担当、そしてテストを書くジュニア開発者。それを私は、Cursorを使って、たった一人で、2回の午後だけでやり遂げました。
AIコーディングがレバレッジを高めると言うとき、それは単に「オートコンプリートが賢くなった」という意味ではありません。「思考」と「プロダクト」の間にある摩擦が、ほぼ消滅したことを意味します。
ダメなアイデアを試すコストは、かつては5万ドルと3ヶ月だった。今は20ドルと週末だけで済む。
これは資金調達の計算式を根本から変えます。月額20ドルのLLM(大規模言語モデル)が仕事の80%をこなせるのに、なぜジュニアエンジニアを2人雇うために会社の20%を切り売りするのでしょうか? あなたに必要なのはランウェイ(運転資金)ではありません。AIコーディングアシスタントのサブスクリプションです。
2. 「AIプレミアム」:なぜユーザーは財布を開くのか
今、奇妙な現象が起きています。長年、消費者向けSaaSの世界は過酷でした。人々は生産性アプリに月額5ドルを払うかどうかでさえ悩み抜いていました。
しかし、AIの領域を見てください。
ユーザーはChatGPT Plusに月額20ドル、Claudeに月額20ドル、あるいはGammaやMidjourneyのようなツールにもっと高い金額を喜んで支払っています。なぜでしょうか?
それは、これらが単なる「ソフトウェア」ではないからです。これらは**「労働力の代替」**だからです。
ユーザーがスライド作成のためにGammaにお金を払うとき、彼らはPowerPoint(コスト:安い)と比較しているわけではありません。手作業でスライドを作るのにかかる4時間の苦痛(コスト:高い)と比較しているのです。
もしあなたのプロダクトが、単に仕事を整理するだけでなく、AIを使って「実際の作業」をこなすものであれば、支払意欲は急上昇します。私は、具体的で痛みを伴う問題を解決するシンプルなラッパー(Wrapper)を立ち上げ、数週間で月商1万ドル(MRR)を達成したインディーハッカーたちを見てきました。
私たちはもはや、小銭を奪い合っているわけではありません。人々に「時間」を取り戻してあげるものを作れば、市場はすぐにプレミアム価格を支払う準備ができています。
3. すべてを作り直せる(「リフレッシュボタン」の好機)
「良いアイデアはもう全部取られている」と嘆く創業者をよく見かけます。
ポール・グレアムは、スタートアップのアイデアはしばしば鼻先にありながら、退屈に見えるものだと語っています。そうですね、今この瞬間、これから起こりうることと比べれば、既存のすべてが退屈に見えます。
私たちは今、ソフトウェアのカンブリア爆発とも言える黄金時代にいます。あらゆる伝統的なコンセプトが再構築可能です:
- Excel → 自ら分析を行うAIスプレッドシート
- Jira → 遅延を実際に予測するプロジェクト管理ツール
- CRM → メールを書き、記録を自動更新する営業ツール
先日、あるレガシーなソフトウェア製品を見ていました。何千もの企業に使われているツールですが、使い勝手は悪く、手入力が必要で、まるで2010年に作られたかのような見た目でした。現代のAIツールを使えば、ソロファウンダー(単独創業者)でも1ヶ月あればその中核となる価値提案を再構築し、より良い体験を提供できるでしょう。
今、あまりにも多くの「低い場所にぶら下がっている果実(容易なチャンス)」があり、歩いているだけでつまずくほどです。既存企業は動きが遅く、自社の既存製品と競合することを恐れています。しかし、あなたにはその心配はありません。
4. 資金を求めて頭を下げるな
ここに罠があります。このチャンスを目の当たりにして興奮した瞬間、これまでの条件付けが発動してしまうのです。*「この機会を素早く掴むために、資金調達をしなきゃ」*と考えてしまう。
そうしてあなたはコードを書くのをやめます。コーヒーミーティングの予定を入れ始めます。スライドを作ります。メールの返信を待ちます。
その間に、VCへのロードショー(投資家回り)をスキップすると決めた他の誰かが、プロダクトをリリースしてしまいます。
この特定の瞬間において、スピードこそが唯一の通貨です。 資本は成功の遅行指標であり、先行指標ではありません。AIが与えてくれるレバレッジがあれば、VCに小切手をお願いする前に、収益を上げることができるのです。
Naval Ravikant(ナヴァル・ラヴィカント)はこう言いました。「コードとメディアは、許可の要らないレバレッジだ」。AIは、そのコードに対する「戦力増強剤(フォースマルチプライヤー)」なのです。
実践的なテイクアウェイ(アクションプラン)
もし私が今日、今この瞬間からゼロベースで始めるとしたら、具体的にこうします:
- ミーティングをキャンセルする。 投資家を追いかけるのはやめましょう。アイデアが良いなら、AIの助けを借りてMVP(実用最小限の製品)を自分で作れます。
- ツールをマスターする。 CursorやReplit、あるいはその時々の最新ツール(メタ)の魔術師になりましょう。AIにどう指示を出すか(プロンプト力)が、あなたの新しいコーディングスキルです。
- 価格を上げる。 AIプロダクトに5ドルという値をつけないでください。もし誰かの1時間の作業を節約できるなら、ソフトウェアとしてではなく、労働力としての価格をつけてください。
- 「退屈な」ニッチを選ぶ。 まだ手作業で行われていて、痛みを伴うプロセスを見つけてください。そこにAIを適用する。それを繰り返すのです。
門は開かれている
10年前、ゲートキーパー(門番)たちが鍵を握っていました。サーバーを買い、チームを雇ってモノを作るためには、彼らのお金が必要でした。
今日、門は大きく開かれています。門番はいなくなりました。あなたはそのまま通り抜けることができます。
創業者になるために、誰かの許可を待つ必要はありません。AIは、あなたがシードラウンドを調達したかどうかなんて気にしません。ただ、あなたのプロンプトを待っているだけです。
さて、この週末、あなたは何を作りますか?
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Feng Liu
shenjian8628@gmail.com